ふたりのおうちを素敵にするヒントが続々!新居探しの参考になる映画10
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“古くて新しく、温かくてクール”
稀代の天才が提案する近未来の空間
Her「her/世界でひとつの彼女(2013)」
PHOTO:AFLO
奇才スパイク・ジョーンズが魅せる
独創的な近未来のオシャレ空間
新居探しで最初に悩むのは、マンションにするか一軒家を建てるか、ではないでしょうか?
こだわりの住まいを探されている場合、一戸建てなら外観も間取りも自分の好みで選べますが、マンションは無機質な“四角い箱“といったイメージ。
あまり個性が出せるスペースではないような気がしますよね。
ですが、そんな四角い箱もインテリア次第でここまでオシャレになるの!?と驚いてしまう空間が、今回ご紹介する映画「her/世界でひとつの彼女」に登場します。
本作は「マルコヴィッチの穴」で鮮烈な監督デビューを果たし、その独創的なビジュアルで映像界のトップを走り続けるスパイク・ジョーンズの監督作。
奇才、天才の名を欲しいままにしている彼が、「人工知能と人間の恋」をテーマした異色のSFラブストーリーを生み出しました。
姿形のない人工知能とどうやって恋に落ちるの?
どんな世界が描かれているの!?
と、疑問ばかりが浮かんでしまうユニークな設定ですが、それでも、最近のテクノロジーの進化を考えると、そう遠くない未来ではありえるお話かもという気もしてきますね。
本作でもそんな近い未来を予想してなのか、現代と続いている“ほんのちょっと先の未来”をイメージしたビジュアルで描かれています。
インテリアも従来のSF映画にあるような先鋭的なデザインのものはなく、ありふれた部屋に少しだけクールな味付けをしたようなテイストで、そのさじ加減が絶妙にオシャレ。
暖色を多用した温かみのある色調や古さが逆に新鮮なヴィンテージ家具、レトロファッションなど、画面に映るすべてにスパイク監督ならではのセンスがあふれていますので、まずはその世界観に酔いしれてお楽しみください。
愛を失った男が
次に恋に落ちたのは、
肉体をもたない人工知能だった
PHOTO:AFLO
近未来のロサンゼルス。テクノロジーが進化し、ほぼすべての操作が音声でできる便利な世の中。
手紙の代筆ライターとして働くセオドア(ホアキン・フェニックス)は、最愛の妻キャサリン(ルーニー・マーラ)に離婚を切り出されるものの、応じられずに1年以上も別居を続けていました。
ふさぎ込んだ日々を送るセオドアですが、ある日、世界初の人格化した人工知能OSを見つけ、購入。
自宅で起動するとOSはサマンサ(声:スカーレット・ヨハンソン)と名乗り、コンピュータとはとても思えない肉感的でハスキーな声で話し始めました。
さらに、会話の内容はもっと驚きで、セオドアが聞いたことに答えるだけではなく、サマンサからも質問したり、笑ったり、軽口を叩いたり、礼儀正しく気遣ったりなど、まるで人間そのもの。
PHOTO:AFLO
最初は戸惑っていたセオドアですが、常に傍にいて話を聞いてくれ、会話を重ねるごとにセオドアへの理解を深めていくサマンサにどんどん心を開いていくようになります。
また、経験から学習していくサマンサも、こどものような無邪気さでセオドアから教えられる人間の知識をどんどん吸収し、驚きのスピードで進化していくのでした。
そんなある日、セオドアの元にキャサリンの弁護士から離婚届にサインをするよう催促の連絡が届きます。
落ち込んだセオドアは、サマンサにキャサリンが去ってからの孤独を打ち明け、慰めてもらいます。
そんな心の交流を続けるうちにサマンサにますます惹かれていくセオドアは、サマンサが入ったスマホを胸ポケットに入れて、外でのデートも楽しむように。
2人はサマンサの姿が見えないだけで、本物の恋人同士のような楽しい時間を過ごし、セオドアはサマンサになら何でも話せると打ち明けます。
しかし、サマンサは心の内は恥ずかしくてセオドアには明かせないと返事。
同じくセオドアに惹かれていたサマンサは、肉体を持って実際にセオドアの隣を歩きたい願望を持ち始めていたのでした。
製作意図を超えた進化を遂げるサマンサとセオドアはさらに関係を深めていきますが…。
色使い、アイテム、配置の
センス。
今すぐ真似したいテクばかり!!
本作品は、スパイク・ジョーンズ監督初のオリジナル脚本で制作されました。
みごとアカデミー賞脚本賞を獲得した素晴らしいストーリーで、監督は「人工知能と人間の恋」という突飛な設定ながら、普遍的な「人と人の繋がり」を描きたかったと語っています。
その思いは画面作りにも表れていて、近未来を舞台にしながらも現代と切り離されていない、親近感のわくビジュアルを構築。
“よく知っているけれど、どこか新しい”というオシャレ感が全編を包んでおり、新居の参考に観ても真似をしやすいところが嬉しいポイントです。
特にセオドアが働くオフィスと自宅マンションのインテリアがとっても素敵なので、この2か所を詳しくご紹介しますね。
PHOTO:AFLO
まずオフィスインテリアですが、1フロア全体がとってもカラフルでポップ!
各ライターのブースがパーテンションで区切られているのですが、そのパーテンションが半透明のカラー板になっていたり、大きな窓にカラーチートのような多彩な色付きガラスが使われていたり、天井から大きいカラータペストリーが吊るされていたり。
暖色を中心とした温もりのある色彩美があふれていて、その柔らかな色合いが半透明のクールさと絶妙にマッチしています。
色の持つ力というか、色が空間に与えるムードや雰囲気がよく伝わるビジュアルで、これを観れば新居のインテリアにも色物を取り入れたくなるかも。
色物はコーディネートが難しいですが、オシャレな配色やカラーバランスは、このオフィスシーンを何度も何度も観て、参考にしてくださいね。
本作はラブストーリーらしく、全編を通して赤やオレンジなど温かみのある色調がメインに使われているのですが、マンションで孤独に暮らすセオドアの部屋はもう少しシック。
PHOTO:AFLO
オフホワイトの壁とダークブラウンの床に囲まれた広い部屋に、必要最小限のヴィンテージ調の家具が置かれ、少しレトロで落ち着いた空間になっています。
これは1920~30年代の流行を取り入れた衣装にも言えることなのですが、ビジュアルコンセプトとして、古いものこそ新しい、つまり古いものを使うことで逆に未来を表現できるという監督の考えによるもの。
確かに歴史を振り返ってみても流行は回り回っていますし、ちょっと先の未来を表現するにはぴったりの方法だと思います。
ですが、レトロなものをそのまま使うのではなく、古いものに少しだけ新しいエッセンスを足して未来感を演出するのは、かなり難易度が高いはず。
でもそれを、厳選したアイテムを使い、効果的に配置して完璧な空間に仕上げてしまう抜群のセンス! 本当におみごととしか言いようがありません。
リビングにぽつんと置かれた革張りのソファーもデザインが素敵なライトも、シンプルで温もりのある机も、厳選されたインテリアは全てカッコよくてすぐに取り入れたくなるものばかり。
それが、キャサリンが出て行った殺風景な部屋に絶妙な配置でセットされているので、ヴィンテージアイテムが持つ味わいが際立ち、温かみとクールさが共存する粋な部屋に仕上がっています。
この引き算のテクニックは、ミニマムなインテリアが好きな方やお家が狭いという方にも大いに参考になるところですね。
余白のスペースが醸し出す、静なる雰囲気の美しさにも改めて気づかされます。
オフィスもセオドアの部屋も元はただの四角い空間ですが、飾り方次第でこんなにも雰囲気が変わることがよくわかるビジュアルだと思います。
この映画を参考にしてセンスとテクニックを磨き、新居を自分たち色に彩る飾り方を見つけてくださいね。
人と人が繋がっていくために
意識するべき努力とは?
PHOTO:AFLO
「人工知能との恋」と聞けば、生身の人間を拒否して、リアルじゃない関係に逃げ込んだイメージを持ちますよね。
ですが、前述した通り、監督が本作で描きたかったのは「人と人との繋がり」「普遍的なラブストーリー」です。
確かにサマンサは観ている私たちの想像以上に人間的で、姿が見えないことを除けば完全に人間そのもの。
セオドアとサマンサが惹かれていく様子も、相手を必要とし、もっと繋がりたいと願い、そして失いたくないと恐れる、そんな私たち自身が共感できる恋の変遷が描かれていて、デジャブを感じるほどです。
そんな風に自分を投影し、自分の中にある恋の喜びや痛み思い出しながら観ていると、次第に監督が考える「人と繋がるために大切なこと」が見えてくるよう。
それは、セオドアとサマンサが住む世界が違うことで揉め、仲直りする時にセオドアが言う
「これからは何でも君に話すよ」
という言葉に集約されています。
この映画の中には離婚や別れがいくつも登場しますが、その多くの原因として自分の殻に閉じこもり、相手を理解しようとしていなかった態度があります。
どんな関係にも壁があり、変化が訪れる中で繋がりを保つには、互いの心を打ち明け合う姿勢が大切。その姿勢さえあれば、セオドアとサマンサのように肉体はなくても心の繋がりを感じていられると教えてくれているようです。
これは、これから夫婦として長い繋がりをもつ2人にはとても大切な温かいメッセージですね。
ぜひ、この映画は彼と一緒に観て、オシャレな新居のヒントを探しつつ、普段は言えないような心をオープンにした会話も楽しんでみてくださいね!